医学部医学科 5年
白崎 茉莉さん
IFMSAは、International Federation of Medical Students’ Associations の略で、国際医学生連盟のことをいいます。1951年に設立され、WMA(世界医師会)?WHO(世界保健機関)によって、公式に医学生を代表する国際フォーラムとして認められています。96の国と地域の120万人以上の医学生を代表する団体で、本部はフランスの世界医師会内に置かれています。IFMSAには公衆衛生、エイズと生殖医療、難民、医学教育、臨床交換留学、基礎交換留学の6つの常設委員会があり、さまざまなプロジェクト?ワークショップが世界各国で運営されています。
白崎さんは、医学部の部活動「FEAL」の留学グループに所属し、このIFMSAに参加しています。昨年4年生(2013年)の夏休みに交換留学プロジェクトでハンガリーのデブレツェン大学に留学しました。
1年生のとき、FEALの活動の一つに交換留学があることを知りました。それまで英語で会話する機会がほとんどなかった私にとって、留学生と触れ合うことはとても新鮮な出来事でした。留学生が話してくれる自国のことや先輩の留学体験談を聞いているうちに、私も海外に行って医療や社会を自分の目で見てみたい、と強く思うようになりました。
年に1度行われるIFMSAの総会に参加した際は、日本全国に様々な分野で国際的に活動する医学生をたくさん知り、とても衝撃を受けたことを覚えています。彼らの考えや活動を聞いたことで、さらに私の「留学してみたい!」という思いが強くなりました。
留学国をどこにしようと考えた時、ドイツやイタリアなどの西欧諸国はどうしても人気が高いためなかなか希望が通りにくいという現状がありました。わたしも西欧に行きたいという気持ちはあったのですが、東欧がどんなところなのかということに以前から興味がありました。それで調べているうちに、ハンガリーが候補としてあがりました。そしてハンガリー第2の都市であるデブレツェンへの留学が決まりました。
わたしはデブレツェン大学の附属病院の循環器内科の生理学の研究室に配属されました。デブレツェン大学では、診療科ごとに建物があって、その中に基礎医学系の研究室や臨床医学の研究室や外来が設置されていました。
わたしの研修テーマは「生理学的、病態生理学的条件における心筋細胞の収縮」でした。心筋細胞生理学のラボで、1つの心筋細胞がさまざまな培養液の中で収縮力がどのように変化するのかを検証する実験に取り組みました。ラットの心筋細胞を用いて、主にカルシウムイオン濃度と温度を変化させながら、受動収縮力と能動収縮力の大きさを計測し、グラフ化しました。条件によっては収縮力が上がっても心筋細胞の耐久力が低下することもありました。この研究を応用させることで、たとえば心筋梗塞後に心不全になった患者の心臓収縮力を改善する薬剤の開発や治療につなげることができます。
他には血管生理学のラボでは、血管の収縮性を調べる実験に用いるラットの血管を分離する作業を体験しました。顕微鏡下で、ピンセットと眼科バサミを使って血管を周囲の組織から取り出し、指定の場所に糸で固定するのは、とても集中のいる作業でした。
毎週月曜日の朝に行われるカンファレンスにも参加しました。先週1週間の研究の成果や今週の展望について一人ひとりが発表し、質疑応答する時間でした。ハンガリーでは公用語はハンガリー語なのですが、大学においては英語でのやりとりが一般的であり、カンファレンスも英語で行われていたのが印象的でした。
ハンガリーではハンガリー語が公用語であり、街中では主要観光地を除くほとんどの地域で英語が使えませんでした。しかし、世界中から学生が集まるデブレツェン大学内では英語がハンガリー語と同様に使われており、講義や日常会話も英語がメインでした。医学英語もすらすらと使っている学生を目の当たりにし、自分の勉強不足を悔やみました。
1ヶ月の滞在を通して思い出に残っているのは、滞在をともにした留学生とのかかわりです。ブルガリアから2人、イギリスから1人、ブラジルから1人の留学生が同じプログラムでデブレツェンにいました。食事にでかけたり週末に小旅行にでかけたり、わたしたちは常に5人で行動しました。彼らも当然のように英語を使いこなし、ハンガリーの学生とのやりとりにもほとんど苦労していなかったように思います。はじめは何を話しているのか聞き取ることもできず途方に暮れてしまいました。次第に話している内容がわかるようなってきても、次は自分が感じたことを言葉として発することができず、非常にもどかしい思いをしました。毎日の研修や会話の中で見つけた知らない言葉や便利な言い回しを、メモして帰宅後調べることを繰り返し、何とか自分の語学力を上げようと努めました。周りの友人もそれを見て、わたしが分かるようにゆっくり何度も話しかけてくれたのがとても嬉しかったです。
実習の配属先はみなそれぞれ違ったので、1日のプログラムが終わった後、学食でランチをしながら今日何をしたとかを話し、そのまま午後の街に出かけてお茶やビールを飲みながら自分たちの国や大学、趣味について話す…。とても楽しい時間でした。彼らと話すなかで、それぞれの国が抱えている医療の問題や、自分のなりたい医師の姿、どれだけ強い志をもって医学に励んでいるのかを知り、わたしにとても強い衝撃を与えてくれたことを覚えています。日常のこと、自分の考え、医学のことを英語で上手く表現できず、自信をなくしていたわたしにとって、彼らの存在は強い励みになりました。
「マリが上手く話せなくたってマリが話そうとがんばっていることをわたしは知っているよ」とブルガリアの女の子が言ってくれた時、とても心が軽くなり、残りの期間をもっと積極的に過ごそう、と思うことができました。だんだんと自分の考えも言えるようになって、留学の後半ではブラジル人の女の子と2人で隣国のルーマニアに旅行したり、帰国前に一人でウィーンに行ったりと、自分の行動の幅を広げることができました。
留学に行くか迷っている人も、決めている人も、とにかく現地でまずぶつかるのが言葉の壁だと思います。なかなか思っていることを言えずにさみしい思いをするかもしれません。だんだんと消極的になってしまうかもしれません。でも、自分自身に相手とコミュニケーションをとりたいという気持ちがある限り、必ず周りも応えてくれます。わたしは英語こそ遅れをとってしまいましたが、常に誰かと一緒に話したり勉強したり遊んだりしながら1ヶ月間を過ごしていました。逆に言うと、どれだけ英語が話せたり専門知識があったとしても、人とのつきあいを大切にしなかったら、これほど充実した時間を過ごせなかったでしょう。
留学したときに直面する自分の課題、新しく知った世界、そして出会う人々。そのどれもがかけがえなのない経験となるはずです。みなさんも有意義な留学期間を過ごせるよう、頑張ってください。