大学院工学研究科の川﨑常臣准教授や大学院生2名による研究チームの論文「ストレッカー合成によるアミノ酸の自己複製:中間体のキラル増幅およびキラル増殖に基づいて」が、英国王立化学会が出版する学術誌「Chemical Communications」72号に掲載され、表紙(Inside Front Cover)を飾りました。
川﨑准教授と大学院工学研究科博士後期課程2年の髙松直矢さん、博士前期課程2年の會場翔平さんが、今回の研究成果について、9月6日に文京キャンパスで記者説明会を行いました。
化学物質には、平面的な構造が同じでも、右手と左手のように重なり合わない2つの立体構造(鏡像異性体)を持つものがあり、この「右」、「左」を厳密に使い分けています。アミノ酸には、分子の構造式が同じでありながら、鏡に写したように非対称な立体構造「キラル化合物」を持つ「L型」と「D型」があります。
川﨑准教授の研究チームは、この「L型」と「D型」が同じ確立で発生したところに、シアン化水素、アルデヒド、アミンの3つの試薬を加え、加水分解により「L型」と「D型」のいずれかのアミノ酸自体が自己複製を増幅する合成過程を世界で初めて見出しました。本研究は、アミノ酸が自己複製する機構の解明を目指し、なぜ、地球上のアミノ酸はD型ではなくL型で占められているのかという、生命誕生の起源に迫るものです。また、大学院生らが修士論文に取り組んでいた課題の成果であり、記者会見に出席した院生は緊張する中、研究のきっかけから検証の過程まで詳しく説明しました。表紙には鏡像異性体を表現した左手で左手をイラストでデザイン、今回の研究成果で見出された分子構造を描くことで、画期的な成果を高く評価しています。
生命誕生前の地球でアミノ酸がどのような反応経路によって、L型を選択したのかを検証?解明することは極めて興味深い研究テーマです。今後は「L型」「D型」のアンバランスが全くない初期条件下から、L型ないしはD型アミノ酸を与える自発的な絶対不斉合成にも挑戦します。
なお、院生二人は、分子キラリティーに関する国際会議「Molecular Chirality Asia 2016」において「Best Poster Award」も受賞しています。
http://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/cc#!issueid=cc052072&type=current&issnprint=1359-7345
掲載論文:Replication of α-amino acids via Strecker synthesis with amplification and multiplication of chiral intermediate aminonitriles
(日本語タイトル:「ストレッカー合成によるアミノ酸の自己複製:中間体のキラル増幅およびキラル増殖に基づいて」)